第202球「マネーボール」(2005.3.3)

 今年も多くの日本人選手がMLB移籍を果たした。日本での実績を買われた選手もいれば、新天地を求める選手もいる。日本のプロ野球には目もくれず、最初からMLBの下部組織でチャンスを伺う選手もいる。そして今は日本のプロ野球に所属しつつも、視線を海外に移す選手も続出している。野茂英雄が海を渡るまでは、全く想像もしていなかった光景である。今更ながら野茂の偉大さを感じる。

 その中で俺がひそかに注目しているのはアスレチックスに入団した藪投手だ。藪投手自体を注目することもさることながら、アスレチックスの個性際立つ選手補強理論に、日本の藪投手がピックアップされたことに大いに興味があるのだ。アスレチックスの独特の補強理論、それが今回の題名である「マネーボール」だ。安価で選手を見出し一流選手に育て、そして強豪球団に移籍させることで次の選手発掘の資金を調達するその手法で、毎年好成績を収める不思議な球団を支えるのが、このマネーボール理論だ。

 とかく「速い球を投げる」「遠くに打球を飛ばす」力は天性のものであり、その素質を持つ選手を日本のプロ野球界は捜し求めるキライがある。「最高150kmの速球派」「高校通算50本塁打」そんな肩書きを持つ選手が毎年入団してくる。マネーボール理論はその逆を目指しており、他にも色々あるが掻い摘んで言えば、「テクニックのある選手がパワーをつけるのは容易いが、パワーのある選手がテクニックをつけるのは容易ではない」という姿勢で選手発掘を続ける。打者に求めるのは「出塁率」、投手に求めるのは「制球率」。非常に対照的な手法だ。

 当然、アメリカ人と日本人の体力的な差異もあるので、一概には言えないが、マネーボール理論に藪投手が浮かんできたことは、非常に面白い。正直近年低迷を続ける藪投手が、MLBで活躍できる保証はどこにもないのだが、だからこそ、逆に成功してもらいたい思いはひとしおである。なんだか体力的に下降線を辿る我々にも、少しだけ自信をつけさせてくれるような気がしてならないのだ。阪神のキャンプ中継を見ていて、「何て美しいフォームで投球するんだろう!」と俺が感心した選手は、他ならぬ藪投手だ。その相馬眼たるや如何に?。俺の選手を見る目も試されているような気がして、ちょっと緊張するこのごろなのだ。