第190球「京都の第3コーナー」(2004.11.24)

 競馬中継でおなじみの杉本アナ(正しくは、元アナだが)には競馬中継の名文句が多く、思い出す方も多かろう、と思う。特に個人的に、というか今更ながら印象に残っているのが、今回の題名にある一節だ。正しくは、「京都競馬場の下り坂はゆっくり下らねばなりません・・・。」というものだ。速さを競う競馬で「ゆっくり」なんて変な表現なのだが、ここで脚を使ったり、仕掛けてしまうと最後の直線で伸びきれない、最後の勝負どころで競り負けることを踏まえての発言だ。競馬も奥深いものである。

 坂を登る・下ることを考えた時に、素人目からすれば当然坂を登るほうがしんどい、と思う。ところが、筋肉に対する負荷というか負担は、実は坂を下ることのほうが大きいのだそうだ。箱根駅伝などで、山登りの選手は大変だなぁ、とか、山くだりはラクでいいなぁ、という感覚は実は間違っているものらしい。ブレーキをかけようとする体と、下ることで自然と付く加速力の間で、強烈にせめぎあいが生じ、その結果負荷や負担が大きいのだそうだ。あくまで坂に対して全力で(又はそれに近いスピードで)駆け抜けた場合ではあるが。

 難しいのは、自然と加速力が付くこともあり、周りの馬(選手)もどんどん加速していってしまうこと。だからこそ、そのせめぎあいに自分の脚が負けてしまう馬(選手)が続出するのだ、という。ライスシャワーやワンダーパヒュームが散ったのもそのせいだったのだろうか・・・。周りに負けじ、と加速した瞬間・・・悲劇が訪れてしまったのだ。

 この法則は肉体的な面でも同じように思う。体力的に落ちてきた時にそれを維持し、自分のパフォーマンスを維持するのは、自分の体力が上がってきている時代に自分のパフォーマンスを上げるよりはるかに難しい。だからこそ、「ゆっくり」下りたいものである。できれば、「のんびり」下りたいものである。

 「ゆっくり」「のんびり」下るためには、それなりの準備が必要だし、それなりの心がけも必要だ。本当に必要なのは、最後の直線までじっと脚を貯めておく我慢だ。勢いに任せてそのままにしておくと、結果的に肉体に及ぼす負荷や負担は今まで以上に大きくなり、その結果、怪我や故障という形になって現れてきてしまう。じっと脚を貯めよう。この冬はそれを意識して活動をしていく所存である。来期、という直線に向かった時に切れる脚を残して、最後ハナ差だけでも秀でるように。