第171球「ジワジワ悦べ」(2004.6.25)

 「守備は一歩目が大事だ」とよく言われる。打球にできるだけすばやく反応し、そして確実に処理する。もちろんこれが守備の第一歩だと思う。が、そういう意味では守備には「ゼロ歩目」が存在する。それは守備位置をどうセットするか、というプレー前の営みにある。

 一般的に一歩守備位置を動かすと、その方向に守備範囲は2m広がる、といわれている。それは単に2m動いたから、というのではなく、打球に対する意識がそちら側に、向いていることに他ならない。意識が向いているからこそ、その打球に対し的確に反応することができるのだろう、と思う。

 一打席目は相手の体格や打順を基にして、オーソドックスな守備位置を敷くことが多い。勝負は二打席目以降だ。明らかに主砲、とわかるような選手を除くと、あまり打順に固執すると失敗することが多いように思う。「打順」イメージどおりの打球になってこないことが非常に多いのだ。かといって一打席目に快打を飛ばしたからといって、またこの後の打席でも同じ打球が飛んでいくのかというとそうでもない。このあたりのせめぎあいも守っている身からすれば、密かな楽しみと言えるのだ。

 俺は捕手からの情報を結構活用する。何だかんだ言ってもスイングスピードが速い選手の打球はやはり速い。これは体が大きいからとか、力がありそうだから、という外見だけではなかなか推し量れない部分でもある。それを最も体感できるのは他ならぬ捕手なのだ。ここからの情報は守っていて意外と役に立つことが多い。その辺うちの捕手の目(耳?)は非常に精度が高いといって言い。

 あと少しで追いつけそうな打球を取れなくて、悔しい思いをすることがある。自分の守備の力を嘆く前に、そういう情報収集をしてきたか、そしてその情報を基にして守備位置を変えてきたか、今一度思い出してみて欲しい。場合によっては思い切った守備位置を取ることだって必要なのだ。それもひとつの勝負論として捉えてよいのではないだろうか。この喜びは後々ジワジワ来ますよ。