第92球「ラヂオ深夜便」(2002.10.24)

 深夜放送といえば、オールナイトニッポンだった。受験勉強にしろ、夜更かしにしろ気がつけばいつも周波数を合わせていたように記憶している。デーモン小暮、とんねるず、ビートたけし、中島みゆき・・・今考えても錚々たるラインナップであると思う。

 仕事柄深夜帰宅することも多く、タクシーを利用することも多いのだが、十中、八九の割合でタクシーの運ちゃんが聞いているのが、NHKのラヂオ深夜便だ。午前0時から生放送で朝までやっている番組だ。「次のコーナーは『列島の動き』です」などと大層なコーナー名をつけているものの、紹介するのは「福島県の●●さんからのお手紙です。「私はさくらんぼ農家をしているのですが、先日さくらんぼの収穫が終わりました・・・。」というような、トホホな内容で、しかもアナウンサーも淡々と「それは良かったですね・・・次のお便りは・・・」などとさらにトホホな返しをしたり、となかなか刺激的な番組だ。

 ところが聞いているうちに、だんだんその語り口に引きずり込まれるような不思議な感覚を覚えることになる。気がつけば、自分で深夜車を運転している時もラヂオ深夜便を聞くようになってしまったのだ・・・。

 ラヂオ深夜便はさしづめ「オヤジ野球」だ、といえる。俺よりも年配の方々で構成されているチームと対戦したときに、「この球威ならいつでも打てる」とタカをくくり、最後の最後までタイミングがあわず、気がつけば押さえ込まれて敗戦の憂き目にあうという経験を俺は何度もしている。その敗戦の悔しさといったら、言葉では言い表せない。相手をナメたという自分の愚かさと、絶妙な投球術・戦術に翻弄された自分の未熟さに気づくことになる。「オヤジ野球」恐るべし。

 いずれ我々も「オヤジ野球」を展開していくことになるのだろう。俺は「オヤジ野球」を否定しない。むしろ究極の草野球像として捉えてさえいるのだ。近年大学生で構成されたチームと対戦することも多くなり、若さとパワーに押されつつも、凌いで凌いで勝利をもぎ取ると実に気分がいい。スキのない試合運びの点で我々も「オヤジ野球」を目指すべきなのかもしれない。その前に戦える体を維持するのは言うまでもないのだが。

 そんなことを考えながら運転中に「ラヂオ深夜便」を聞いている。ところが、これを聞いていると図らずも眠くなるのだ。気をつけねばと思う今日この頃である。