第83球「10年ひとむかし」(2002.8.20)

 早いものであれからもう10年経つ。日本中の高校野球ファンが大騒ぎした因縁の一戦「星稜高校vs明徳義塾」の一戦から。松井秀喜というスラッガーを擁する星稜高校に勝つために、明徳義塾がチョイスした戦術は、松井をすべて四球で歩かせること。五打席連続敬遠(四球)された松井は、結局一回もバットを振らずに敗れ去ることになったのだ。

 これには世間が黙っていなかった。「高校野球らしくない」「逃げた」「汚い」と罵られる明徳ナイン。しかし明徳義塾の馬淵監督は言うのだった。「二回戦は二回戦の風景しか見えてこない。勝ちあがれば勝ち上がるだけ、また違う世界が見えてくる。俺はこの子たちに準決勝、決勝の風景を見せてやりたいんだ。」

 個人的には、明徳の取った戦術は別に非難されるものではないと思ってはいる。どの対戦相手も似たような戦術を取っていただろうし、あえて松井に真っ向勝負した投手はことごとく打ち返されて敗れ去ったわけだし。高校生の松井自体が、「高校生らしくないスラッガー」なわけだし。こっちのほうが反則のように思えるほど、松井の打者としての資質は高校時代から群を抜いていたように記憶している。

 凄いのは、自分たちの戦術を徹底的に貫いたことだ。アウトカウントやランナーの有無に関わらず、徹底して松井を歩かせることを命じた監督と、それに従った選手。反論は色々あるかと思うが、外野の我々が何を言おうと、「勝ち」に行く明徳義塾の一貫した姿勢だけは評価されてしかるべきだ。

 高校時代は縁がなくてあまりぴんとこなかったのだが、どんな大会であれ、上位に進出すると、確かにまた違った風景を見ることになる。なんの変哲もない野球場であっても、それが「準決勝戦」「決勝戦」などという名目がつくと、そのグラウンドが素晴しいものに見えてきてしまう。普段の自分では打てない、取れないようなボールが打てたり、取れたりしてしまうことがある。普段の自分たちと思えなくらいの集中した引き締まった試合ができてしまったりする。その「風景」は本当に不思議なものだ。

 ここ数年のTWINSの活動で、各種トーナメントで運良く上位進出してみて初めて、馬淵監督の言う「準決勝、決勝の風景」というものがなんとなくわかるような気がしてきた。あれからもう10年経つ。今年の明徳ナインの目には甲子園球場がどのような風景に見えるのだろうか。