第77球「リセット」(2002.7.16)

 シアトルマリナーズのイチロー選手は、シーズンが終わると、良い結果も悪い結果もすべてリセットするそうだ。そうしてまた新しいシーズンに向けて準備を進めていく、と。メジャーリーグの新人王も首位打者も、彼からしてみれば過去のものであり、すでに「リセット」された産物なのだろう。

 翻って草野球でもこの「リセット」という作業は実に重要だ。マクロでいえば、一週間の仕事を終え、休日に野球に取り組む。そして週明けからはまた仕事に取り組む。このサイクルをうまく回していくことが大切になるし、ミクロで見れば、試合のチェンジ毎に気持ちを切り替え攻守交替する。これらの作業をうまくできるかどうかで、実は随分とプレーそのものに影響が出てくるものだ、と思う。

 過去のプレーを引きずると、次のプレーの足かせとなる。だからバッテリーは一球内角球を投げて打者をのけぞらせてから、外角に変化球を投げるのだ。内角球の残像を引きずることで、打者は外角球についていけなくなるのだ。それが野球の持つ駆け引きなのである。野球人はできるだけ、過去のプレーを引きずってはならないのだ。

 ただし注意しなければならないのは、この「リセット」という作業はあくまで「自分自身のリセット」である、ということ。これが意外と難しい。逆に自分自身以外の部分は絶対に「リセット」してはならない。相手の弱点やちょっとした仕草やバッテリーの組み立て方・・・。こういう小さなことをインプットしておくことで、野球を有利に進めることが出来る場合がある。これができるということは、冷静に相手を分析し、考える余裕があるということだ。つまり「精神的に有利に立つ」状態になるといえる。

 つまり、「リセット」していい情報と、「リセット」してはならない情報があり、それを分類していくことが野球人としては求められよう。イチロー選手は「新人王」「首位打者」はリセットしていい情報なのだろう。逆に相手投手のクセや配球や球場の特徴は絶対にリセットしない。だから、研究されてもさらにその上をいく結果を残せるのだろうな、と思う。プレー以外でも見習う点はたくさんある、というわけだ。

 我々もリセットすべき情報はきちんとリセットしましょう。そしてまたフラットな状態で、週末の試合を迎えましょう。