第71球「シートノック」(2002.4.15)

 時間があれば、の条件付きではあるが、試合前には必ずシートノックを行う。体をほぐすという目的もさることながら、グラウンド状態や、芝の深さやフェンスの形状など球場の特色を掴む目的もあって、非常に大事な時間である、といっていい。

 多少大げさかもしれないが、「どう守るか」を決断する材料はシートノックのわずかな時間の中で見出すしかない。だから、シートノックを終えた直後に「今日はフェンスが柔らかくて跳ね返ってこないから、長打の時の中継はできるだけ深く追ってくれ」だとか、「今日はグラウンドが固くボールが弾むから叩きつける打撃をすればいいかも」なんていう進言には無条件に賛同してしまう。シートノックをやる意味がまさにここにある。

 野球人それぞれに持論はあるか、と思うが、俺がシートノック時に個人的に留意している点はもう一つある。それは最初と最後のバックホームのプレーだ。前進守備で緩めの打球を確実に捌いて捕手にストライクボールを投げる。なんの変哲も無いプレーではあるけれども、最初はともかく最後の締めくくりのバックホームは、自分の最高のフットワークで捌こうと心がけている。それができるようにシートノックで体をほぐすわけだし、何より本塁で刺すということは相手の「1点」を防ぐことに他ならないからだ。

 前進守備でバックホーム体制を敷く、ということは当然のことながら守備側から見ればピンチであり、しかも往々にして僅差の勝負であることが多い。だからそれを想定したプレーはきっちりこなしておきたいのだ。で、それがしっかりできると、試合前凄く安心する。「あ、今日もちゃんと動けるな」と。これで試合への臨戦体制が整うわけだ。

 だから、逆にそのプレーに失敗しても、やり直しはしない。なぜならば野球に「もう一丁」は通用しないからだ。一点取られた、という事実だけが残ることになるのだ。後は、自分の中でそのプレーに対してどれだけ納得できるか、なのだろう。自分のベストプレーであったかどうか、答えは自分で出すしかない。

 勝負どころでのプレーはできるだけ自分のベストプレーをしていきたい。リスキーなプレーになることも多く、それがもとで失策をすることもあるかもしれないが、その勝負のための準備だけは抜かりなくしておきたい。そういう想いからシートの最初と最後だけは特に力を入れている。そしてそれが相手にも味方にも伝わるプレーをしていくつもりです。