第70球「後ろからの視線」(2002.4.12)

 ヤクルトスワローズの野球中継を見ていて、時折ホームベース上がクローズアップされることがある。打者と捕手古田と審判が画面一杯に映し出される。おもむろに打撃体勢に入る打者を古田はじっと見つめている。打者の表情やスタンスの位置を凝視している。そうしてから古田は投手にサインを出す。その凝視する姿はプロとしての凄みを感じさせる。もうその時点で古田の勝ち、というかそんな感じだ。今度そういう場面になったら、ぜひ注目してほしいと思う。

 ピッチャーの投げた球を素直に強く叩く、これが打撃の要素のすべてだ。他には何にもいらない。「強く叩く」ために、打者はバットを短く持ったり、上から叩きつけるようなスイングにしたり、各々研究に研究を重ねる。どのスイングが自分にとって一番強く叩けるスイングなのかを捜し求める。インコースは引っ張り、アウトコースは追っ付けるのも、それがそのコースを最も強く叩くのに適したスイングだからである。打撃とは、意外とシンプルなのだ、と思っている。それだけに奥深いものだ、ということも。

 ところが、いざ試合になって、打席に立つと、そんな自分の研究も無に帰すことも多い。相手は自分の思い描くスイングをさせまいと、コースや球種を投げ分けてくる。強く叩けないように攻めてくる。打者が打ちたがる気持ちを察して、すっと変化球を投げられたり、1球待とうか・・・という気持ちを見透かしてど真ん中に直球を投げてきたり。

 そこで手を拱いているだけではヒットを打つ確率がぐんと下がってしまうので、打者も打者で色々考える。まず自分が打てるレベルの投手なのか、直球を狙うか、変化球を狙うか、そして、次の投球で相手は勝負してくるのかどうなのか・・・。色々考えながら打席に立つ。「勝負してくる」気配を察知し、そこで「強く叩く」スイングができれば、快打する確率は飛躍的に上がる。打者有利のカウントや四球後の初球やストライクをどうしてもほしい時などが狙い目なのだろう。あくまでも時と場合によりけりなのだが。

 調子がいい時は、あまり余計なことを考えずに打席に立った方がいい結果を得られることが多い。が、好投手と対峙した時や、自分の調子が悪い時などは、どうすれば、自分の最高のスイングができるか、を考えることが必要なのだ、と思う。なぜなら、相手、特に捕手は打者である自分を凝視しているからである。最高のスイングをするために、相手バッテリーとの駆け引きに負けてはならない。これは野球というスポーツを知れば知るほどハマっていく勝負なのだ。