第46球「バッティングピッチャー」(2001.10.24)

 大学時代、よく親父に叩き起こされて行く場所があった。そこは十数名の子供たちと野球好きの彼らの両親とさらに野球好きなおっさんども(俺の親父やコーチ陣)が集う場所だった。町田の山の中にぽっかりとある野球場は俺が野球の基礎を教わったリトルリーグの専用球場だ。

 球場と言っても空き地を整地して、ネットを張り、マウンドを作り、草や石を取り除いて作った手作りの球場だ。周りには四季折々の自然がいっぱいで、子供が練習している間に親達はタケノコやビワや野いちごなんかを採りにいっていた。で、叩き起こされた俺がすることといえば…。そう、バッティングピッチャーである。

 このチームの練習は至ってシンプルで、「午前中はバッティング午後は守備」というメニュー。特にフリーバッティングは俺の現役時代から「鉄腕」といわれたコーチ陣がひたすらバッティングピッチャーを務めてくれていた。その恩返しというわけではないが、大学に合格してしばらくの間、俺は足繁くグラウンドに通いバッティングピッチャーを引き受けた。浪人生活で鈍りきった自分の体を蘇らせるためでもあった。

 相手は小学生である。上手な子もいればそうでもない子もいる。バットを持ってバッターボックスに立っているが、バットを握っているのではなく、バットに掴まっているような子もいた。丁度ランドセルをしょった小学一年生みたいな雰囲気だ。そんな子供たちのバッティングピッチャーをするのは非常に辛い。何が辛いって…。

 いくらストライクを投げても、バットにかすりもしないのだ。軽く投げているので充分打てる球なのだが、どうしても打てない。だんだんスイングも鈍くなり、投げたボールがキャッチャーミットに収まってからぶるんとスイングする有り様。「後一本で交代だ」といわれていてもその「後一本」が出ない。ここまでくるとスイングするところに投げることも考えた。馬鹿馬鹿しいが、こっちもヘトヘトなので本気で狙ったものだ。

 それでも彼らは俺に向かってきた。やっとバットに当たったが、自分の納得いく打球でないと「もう一本おねがいしまっす」と練習を止めようとしない。で、また投げると空振り…。でも、それでも打つまで続けようとする姿は、俺に投げ続けさせるには充分な動機となった。根性あるガキはいいねぇ。結局鍛えられたのは子供たちではなく、俺の方だったのかもしれない。

 つまり、バッティングピッチャーは打者と対決しなければならないのだ。そして、投げるほうも打つほうも有益でなければならないのだ。だから練習では出来るだけ俺もバッティングピッチャーをやることにしているのだ。野球を頑張る動機が欲しいものでして…。打者はそこんとこ肝に銘じていただきたいものです。